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「星の降る夜に」 第十話
2015-04-13 Mon 15:19
~第十話~
【怯えた心<後編>】

現在時刻 【20XX/04/18(水)17:10】


午後五時を過ぎた夕日が室内を照らす中、結祐の祖母は入れたてのお茶を飲んでいた。

「ふぅ……やっぱりお茶は落ち着きますねぇ」
「それにしてもあの子、少し遅いわね……大丈夫かしら」

いつもより帰りが遅い結祐を心配しながら、もう一度お茶を飲もうと湯飲みに手を伸ばした瞬間、
湯飲みは小さな音を立てて割れ目が入った。

「あら……あの子に貰った湯飲みが……」
「……結祐……」

不意に窓に目をやると、外は夕日が町全体を照らしていた。
その光景はどうしようもなく綺麗で、どうしようもなく、気味が悪かった。



「よし、そのまま動くなよお前ら!」

ナイフを桜衣の首に近づけたまま、男は屋上の駐車場へと続くエレベーターに近寄る。
結祐はどうにか桜衣を助けようと考えるが、全く良い案が思い浮かばなかった。
そうこうしているうちに、男はエレベーターに乗ってしまい、緊張が解かれた周囲の人々はざわつき始めた。

「お、おい、誰か警察は呼んだのか?」
「それが、もう近くまでパトカーが来てるみたいで」
「あの男……もしかして朝のニュースでやってた……」
「私達これからどうすれば……」
「あの子のこと心配だけれど……私達じゃどうしようも……」
「下手にあの男を刺激したら余計にあの子が危険だ」

人々は言葉は出るが、誰一人その場から動くことが出来なかった。
ただ一人を除いて……

「……くそっ! 桜衣!」

結祐だけは、急いで階段に向かった。

「おい君! あの男を追っちゃだめだ! ここは警察に任せて……」

付近の人の制止を振り切って、結祐は階段を上る。

(そんな悠長に待ってられるか……!)

結祐は心の中で焦りを感じつつ、男が向かった屋上へと向かった。


「ハァ……ハァ……」

階段を上りきり屋上へついた結祐だが、普段の運動不足のせいで息切れを起こしていた。
付近を見渡しても男の姿はなく、外へ出て行ったのが伺える。

「あいつ……どこだ……」

屋上には車が一台もなく、外へ出ればすぐに男を見つけられそうだった。

ふらふらとおぼつかない足取りで外へ出て、男を捜す。


男は桜衣を抱えたまま身を乗り出して、地上の様子を見ていた。

「っち……警察のやつら、もう追いついてきやがったのか」
「譲ちゃんには役立ってもらうぜぇ? 俺がここから無事に逃げられるようによ」

「く、うぅ……」

男は桜衣の首筋にナイフを近づけ桜衣を脅す。
桜衣が首筋に迫ったナイフを見ないように目を閉じている時、ふと背後から声が聞こえた。

「ハァ……ハァ……おいお前、桜衣を今すぐ離しやがれ……」

「あぁ?」

男は声がした背後に振り返る。
そこには息切れを起こしながら男を睨んでいる結祐がいた。

「なんだてめぇ? ……こいつの知り合いか?」

「ゆ、結祐君!?」

いざ男と対面した結祐だったが、ナイフを持った男が自分を見ているという事実を前に
足が竦んで一歩も踏み出せないでいた。
そんな結祐を見て、男はケラケラと笑い出した。
そうして一歩ずつ結祐に近づいていく。

「はははっ! なんだお前、威勢よく出てきたわりには随分震えてるじゃねぇか」
「俺はよぉ、力もねぇくせにかっこつけるやつが大嫌いなんだよ!」

結祐の目の前まできた男は、結祐を思いっきり殴り飛ばした。

「ぐはっ!?」

「やめて! 結祐君に酷いことしないで!」

「おめぇもうるせぇな……人質は黙ってりゃいいんだよ!」

男は桜衣に怒鳴りつけたところで、ふと考えるように手を顎に当てた。

「……お前ら随分仲よさそうじゃねぇか?」
「そうだな……よし、人質変更だ」

男はそういうと桜衣の胸にナイフを近づける。

「え?」

「……っ!? おい! なにしてんだお前、やめろ!」

男の突然の行動に嫌な予感がした結祐は、大声で男を止めようとする。

「何って人質の変更だって言っただろ?」
「今度の人質はお前で、もうこいつは邪魔だから死んでもらうんだよ」

「意味わかんねぇよ! なんのためにそんなこと……!」

「何のため? そんなもん唯の憂さ晴らしだよ」
「目の前で仲の良いやつが死んだら、さぞ面白い顔を見せてくれそうだからなぁ」

男はニヤニヤと笑い、桜衣にナイフを突きたてようとする。

「ひ……や、やめて……!」

桜衣は必死に逃げ出そうとするが、男の腕力に敵うはずもなく押さえられてしまった。

「おいおいあんまり暴れんじゃねぇよ。 一瞬で殺しちまったら楽しめねぇだろうが」

夕暮れに照らされた男の顔は、酷く醜く歪んで見えた。


(どうする……どうすれば……)

結祐は現状を打破する作戦を必死に考えたが、桜衣が押さえられてるのでどんな作戦も無に等しかった。
男に殴られて跪いている状態では、何をしようとしても無駄……
結祐は、そんなどうしようもない現実を受け入れそうになったのを必死に否定する。

(どうすればいいんだ……母さん……)

結祐の心の中に母の姿が浮かび上がる。
その時、一羽の鳥がデパートの近くの公園に生えている巨大な木のてっぺんに止まったのが見えた。
その鳥はとても綺麗で珍しい青い鳥で、夕暮れに浮かび上がる一つの星のようにも見えた。

(……鳥……)

その瞬間、結祐には一秒がとても長く感じた。
周りの動きが遅く見え、結祐の頭に冷静さを取り戻させる。
たった一つ、桜衣を救うための方法が結祐には見えた。

(……そうだ、あれなら……あれなら桜衣を救える……)

だが、その方法を実行しようとしても結祐の心には一つ引っかかっていたものがあった。

(……また俺は、あれを人に使うのか……)
(悪人だろうと人だ……母さんと同じ、人間……)
(でも、こうしないと桜衣が……それなら俺は……俺は!)

結祐は前を見定める。
その視界には醜い人間と一点の希望の青い鳥、そして……守りたい女の子が映っている。

「じゃあなぁ、元人質の譲さんよ」

「い、いやぁぁぁぁ!!」

男が桜衣をがっちり押さえて再びナイフを突きたてようとした瞬間
カランッという乾いた音と共に桜衣は床にしりもちを付いた。

「きゃ! ……え?」

桜衣の目の前には、さっきまで男が握っていたナイフが落ちていた。
そして……

「ピーッ!」

「え……な、なに!?」

桜衣の頭上には青い鳥が止まっていた。
青い鳥は、驚いたように鳴きながらどこかへ飛び去っていった。
さっきまで桜衣を押さえていた男はというと、影も形もなくなっていた。

「えっと……一体何が……」

ふと桜衣は結祐の方を見ると、結祐は安堵のため息をしていた。

「無事……か? 桜衣」

「う、うん。 私は大丈夫だけど……」
「あの男の人は……?」

「ああ、あいつなら……」

そういって結祐はさっきまで青い鳥が止まっていた巨木のてっぺんを指差した。
そこには何か大きな声で叫んでいる男が木にぶら下がって身動きが取れなくなっていた。
桜衣は、頭をフル回転されて先ほど起こった超常現象について考える。
桜衣の頭には、ここ最近ずっと悩まされている一つの単語が浮かび上がった。

「……能力者……もしかして結祐君が?」

「……今まで黙ってて悪かった……こんな変な力持ってるのなんて知られたくなかったんだ……」
「それに、本当は忘れようともした……俺はこの力で母さんを……」

言葉を言いかけた結祐を桜衣はぎゅっと抱きしめた。

「ぅえ!? あ、あ、桜衣!?」

「ありがとう結祐君……」
「それに、ごめんね。 私なんかの為に辛いことをさせちゃったみたいで……」

「桜衣……うぅ……」

結祐の目からひとすじの涙が流れる。

「うぅ……私なんかの為、なんて言うなよこの馬鹿野郎……もう少し自分を大切にしろよ……」

「ごめんね……結祐君……本当にありがとう!」


ひとしきり泣いた後、二人は遅れて屋上に来た警察に保護され、無事に家に帰ることが出来た。
しつこく警察に色々聞かれたが、何を言っても信じてもらえないだろうということで二人は知らないで通すことにした。



次の日の帰り、結祐は母親の病室を訪れていた。

「母さん……俺さ、また使っちゃったよ」
「もう二度と使うもんかって決めてたのに……」
「母さんを事故に巻き込んじゃったこんな力なんて、忘れようとしてたんだけど……」
「……でもさ、俺、助けられたよ」
「凄く大事な人をさ……」
「……もちろん俺が母さんにやったことは、許されることじゃないことは分かってる」
「俺を恨んでもらったってかまわない。 だけど、俺はこの力に向き合うことにしたよ」
「大切な人を守る為に……」

結祐はそう言い、病室を出ようと扉に手をかけたとき、何かが聞こえた気がした。
振り返ってみても特に変わった様子はなく、母親が起きたわけでもなかった。
ただ、結祐には母親の表情がいつもより和らいで見えた。
恨んだりなんかしない、自分が決めた事を一生懸命頑張りなさいと後押しされた気がした。

「……なわけないか……」

結祐はふっと息を吐き、いつもより少しだけ明るい表情で病室を後にした。

『がんばってね、結祐』

病室の室内を、今日も綺麗な夕日が照らしている。



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